災害に備えて

阪神大震災での瓦屋根問題について(平成7年)

(社)全日本瓦工事業連盟 理事長
渡辺 益美

1.阪神大震災での粘土瓦屋根被害の背景

粘土瓦は、1400年以上前に大陸より仏教とともに渡来し、今日まで日本文化とともに歩んで参りました。
その間、常に改良、改善が加えられ、日本文化の重要建築物の意匠を飾り、屋根と一体となり、雨から建物を守る機能においても重要な役割を果たし、日本の気候風土に最も適した性能を有し、長期的な経済性においても優れていることは、歴史により立証されております。
現在においても、屋根材にしめる粘土瓦のシェアは、50%を維持しております。

ところが、このたびの阪神大震災におきまして、当初マスコミ等において、「重い瓦屋根の木造住宅が多数被害……」という形で伝えられたために、あたかも瓦屋根の建物すべて地震には危険と誤解を受けかねず、粘土瓦業界ではその誤解を解くべく、対応を開始いたしました。

このような事態に似たものとしては、やはり関東大震災があります。
大正12年それ以前は、粘土瓦の施工はすべて土葺き工法でした。関東大震災において、粘土瓦の落下、建物の崩壊による大惨事が発生し、その原因追究の中から、屋根の軽量化と、瓦の固定方法改善のため、行政の指導により瓦の尻の裏面に爪をつけ釘穴を開けた引掛桟瓦が考案され、、総桟打ち引掛桟空茸工法が開始され、関東地方においてはこの工法が広く普及定着しましたが関西地方においては地震の発生も無く、夏の暑さからくる断熱制追求と台風対策の風習により、依然土葺き工法が常識とされ、一部デベロッパー・住宅メーカーの住宅や、公共建物等の非住宅において採用されましたが、このたびの、阪神大震災におきまして、72年前の教訓が生かされず、再度大惨事が発生しましたことは、誠に残念ですが、発生後初期段階では、粘土瓦(土葺き施工方の)屋根の荷重が建物倒壊の大きな原因という様な報道等により、一時粘土瓦屋根のイメージが大変悪化いたしました。

これについては遂次、学会・専門家等の実状調査の結果、昭和25年に第一次建築基準法が施行される以前や、その後の昭和34年の改正で盛られた「必要体力壁量」基準の採用以前の、築後35年以上の老朽化した、構造的にも弱い木造家屋が、このたびの地震で倒壊したものであって、当然にそれら古い建物は、今のような多品種の新生屋根材など無い時代ですので、はとんどが粘土瓦で屋根が覆われております。

しかし、粘土瓦屋根におきましても、旧施工法の土茸き工法のものが大部分で、それが建物に屋根荷重を大きくしていることにより、より負担となっていたことは否めない事実であり、また建物が倒壊しないまでも、老朽した土の上に乗っていた瓦が地震の激しい揺れにより、大きく、ずれ落ちた状況を目の当たりにしてみますと、私ども屋根工事の専門業者が、関東大震災での行政指導の引掛桟施工法への切替えを、関西地区においても強力に推進し得なかったことを深く責任を感じ、反省いたすものであります。

今後については、この様な大地震に耐え、また台風等の強風にも耐える、引掛桟空茸き工法に、適切な緊結法を組み合わせた施工方法を、業界として全面的に実施すべく強力な指導を行うべきであります。

2.阪神大震災粘土瓦葺き屋根被害の復旧対応

このたぴの地震での、全壊住宅を除いた一応の補修を要する建物の内、屋根について粘土瓦の茸替・修繕を必要とするものは、約12万戸と集計されております。
現在、兵庫県の当連盟傘下の瓦工事業組合3組合の合計事業所94、大阪府の組合138、合計232事業所でありますが、全日本瓦工事業連盟は上部全国組織として、地震直後から所管の建設省復興課より地震復旧支援要請を受け、直ちに連盟内に私が本部長を務める「災害対策本部」を設置し、全国からの支援体制を整え、兵庸県、神戸市を訪問し、状況把握、情報収集、意見交換を行い、特に私どもの方から、支援を行うにつき全国からの派遣者の宿舎確保を要請したのですが、何分にも当時30万人もの被災者が避難生活を余儀なくされ、なかなか困難な状況の中で、研修宿泊施設の提供を受け、緊急の派遣を行うことができました。
また、県警本部へも訪問・連絡を取り、悪質業者の取り締まり等の対策を行い、一時は多くの悪質業者が横行し大変混乱しました。

当連盟災害対策本部におきましては組織をあげて全国42都府県会員を延9,000人を派遣いたし、早期復旧に協力し、会員相互扶助、共存・共栄の主旨をふまえ、尚、公益法人としての社会的責務を果たしました。

又、関西地方での風習としての土茸工法、荷重95kgの特殊建築物を除き、全面的乾式軽量強風施工荷重47kgの実施指導を行なうとともに、全国一千万戸以上の老朽住宅の維持管理に関して、適正な施工指導を図り、瓦屋根の普及と住民生活の向上に察支すると共に、瓦工事業界の健全、安定、発展に専念いたすべく、組織の団結と信頼を求める努力を必要といたすものであります。

尚、連盟といたしましては、建設大臣認定瓦屋根工事技士制度、併せて建設省技術評価された全瓦連中層屋根強風施工(JKK工法)又は、全瓦連認定の制度の高度な資格とし屋根診断士の創設等を充分発揮いたすとともに、益々洋風化いたす建築様式にも対応すべく近代化合理化を強力に推進すべく企業努力を重ね経営の安定を確立すべきであります。

3.今後の粘土瓦の施工法改善

①瓦の茸上げ方 土茸き工法と、引掛桟工法について

②耐震・強風(軽量)引掛桟茸特別工法(全瓦連指導)

建設大臣技術評価(建設技術第94310号)

阪神大震災における粘土瓦土茸き工法屋根の被害の教訓を考慮し、72年前に開発された耐震引掛桟葺き工法を参考とし、当連盟として、過去建設省振興課の指導による瓦茸き屋根振動実験、また同じく建設省振興課の指導による建設省筑波建築研究所における風洞実験の結果等を踏まえて、新たな耐震・強風(軽量)引掛桟茸き工法を制定することといたしました。
そのために必要な、粘土瓦の製品改良についても、粘土瓦業界のメーカー全国組織であります全国陶器瓦組合連合会で対応いたしております。
または新たに一体型のし付き冠の開発使用も行うこととし、今後これを地震・台風対応の新施工法とすることといたしました。
ただ、参考として、土茸き工法も、地域や特珠建物により必要とされることが考えられますので、その場合には、荷重を十分配慮した堅固な構造で対応してもらえば、支障はないと考えます。

③一般標準施工法(全瓦連指導)

④全瓦連中層屋根強風施工(JKK工法)

⑤標準引掛桟葺き住宅金融公庫仕様強化仕様

当連盟の指導といたしましては、前②の耐震・強風対応(軽量)特別引掛桟葺き工法の積極的な採用推進が希望でありますが、コストアップのこと等もあり、住宅金融公庫仕様を標準として、その中で引掛桟葺き工法で行うことと、瓦の緊結について、軒先瓦・袖瓦の1枚ごと各1ヶ所、その1列内側の桟瓦の1枚ごと1ヶ所、そしてその他の桟瓦については4枚ごと1ヶ所留め付けとなっていますが、このうち軒先瓦・袖瓦については各1枚ごと2ヶ所に、桟瓦もその他3枚ごと1ヶ所留め付けることと全国の傘下各組合を通じで実施を計る、全瓦連指導といたしましては②工法を最低基準といたすべくものであります。

工法の図